認知症専門医が解説|物忘れと認知症の違い・チェックリストと受診の目安

「最近、人の名前がパっと思い出せない」「何度も同じことを聞いてしまう」……。こうした物忘れが増えると、「もしかして認知症?」と不安になるものです。本記事では、加齢による自然な物忘れと認知症の違い、早期発見のためのチェックリストを専門医が解説します。
日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医/指導医
當銀 壮太
南武線鹿島田駅から徒歩5分のかしまだ頭痛 脳神経クリニック院長。「頭の悩みを気軽に相談できる場所を作りたい」という想いから、川崎市幸区にクリニックを開院。地域中核病院にて、脳血管障害や頭部外傷、脳腫瘍への専門的治療(開頭手術・カテーテル治療・化学療法)に幅広く従事。その豊富な臨床経験に基づき、患者様一人ひとりに最良の医療を提供することに尽力している。
加齢による物忘れと認知症の物忘れ、症状の違いとは?
「物忘れ」という言葉で一括りにされがちですが、医学的には「老化に伴う自然な物忘れ」と「脳の病気である認知症」は全くの別物です。多くの方が抱く不安の正体を明らかにするためには、まずこの両者の性質がどのように異なるのかを正しく理解することが第一歩となります。ポイントは「脳が情報をどのように処理できなくなっているか」という点にあります。
加齢による物忘れとは
加齢による物忘れは、脳の老化に伴って記憶を呼び出す力が少しずつ低下する「生理的な現象」です。誰にでも起こりうることであり、病気ではありません。
最大の特徴は、体験の「一部」を忘れるという点です。
例えば、知人と会った事実は覚えているものの、その人の名前がすぐに出てこないといった状態です。しかし、ヒントがあれば「ああ、そうだった」と思い出すことができます。
また、本人に「最近忘れっぽくて困る」という明確な自覚(病識)があるため、メモを取るなどの工夫をして生活を補おうとするのも特徴です。進行は非常に緩やかで、一人で買い物に行ったり、家事をこなしたりといった日常生活に重大な支障をきたすことはありません。
認知症による物忘れとは
一方で認知症による物忘れは、脳の病気によって起こります。
「体験したこと自体」がすっぽりと抜け落ちるのが特徴です。昨日の晩ごはんのおかずだけでなく、「食事をしたこと」そのものを忘れてしまいます。最大の違いは、本人に「忘れている」という自覚(病識)が乏しい点です。そのため、周囲から指摘されても否定したり、取り繕ったりすることが多くなります。記憶障害は進行性で、次第に日常生活に支障が出始めます。
【比較表】一目でわかる違い一覧
| 項目 | 加齢による物忘れ | 認知症による物忘れ |
| 忘却の範囲 | 体験の一部(名前など) | 体験のすべて(出来事ごと) |
| ヒントでの想起 | 思い出せる | 思い出せない |
| 物忘れの自覚 | 本人に自覚があり不安 | 本人に自覚がないことが多い |
| 日常生活 | 支障はない | 支障が出てくる |
| 進行 | 非常に緩やか | 進行していく |
こんな症状は要注意|認知症のサインチェックリスト
認知症は早期に発見し、適切な対応をとることで、その後の進行を穏やかにしたり、本人の生活の質を保ったりすることが可能です。「もしかして?」と思った時に確認してほしい、日常生活の中の危険なサインを整理しました。
日常生活で気になるサイン
ご自身、あるいは同居しているご家族が「以前と比べて変わったな」と感じる場合、以下のようなサインに注意してください。
- 同じ話を繰り返す数分前に話したことや聞いたことを忘れ、何度も同じ内容を繰り返す。
- 名前が出てこない物の名前が思い出せず、「あれ」「それ」といった指示語が極端に増える。
- しまい忘れ・置き忘れ大切なものを普段しまわないような場所(冷蔵庫の中に財布など)にしまい、見つけられない。
- 時間や場所の混乱今日が何月何日か、今どこにいるのかが分からなくなる。
- 意欲の低下以前まで楽しんでいた趣味や、テレビ番組、新聞を読むことに関心を示さなくなる。
家族が気づきやすいサイン
家族だからこそ気づける、性格の変化や行動の違和感があります。以下の項目が多く当てはまる場合は、専門機関への相談を検討してください。
- 感情の起伏が激しくなった急に怒りっぽくなったり、逆にひどく落ち込んだりする。
- 身だしなみに無頓着になった同じ服をずっと着ていたり、季節に合わない服装をしたりする。
- 料理の味が変わった味付けが極端に濃くなったり薄くなったり、同じ料理ばかり作る。
- 買い物の変化同じ食材を大量に買ってきて、冷蔵庫の中が同じもので溢れている。
- 身の回りの変化以前は綺麗好きだったのに、部屋の片付けができなくなっている。
- 疑い深くなった「財布を誰かに盗まれた」「みんなで自分の悪口を言っている」と被害妄想を抱く。
物忘れ以外にも見られる認知症の初期症状とは
認知症の症状は、記憶力の低下だけではありません。
「理解力・判断力の低下」により、複雑な計画が立てられなくなったり、信号の意味がわからなくなったりします。また「実行機能障害」により、家電の操作や料理の段取りができなくなることもあります。
さらに、性格が変化したように見えたり(抑うつや怒りっぽさ)、周囲への関心が極端に薄れたりする「心理・行動症状(BPSD)」も初期からみられることがある重要なサインです。
受診の目安|症状の進行を防ぐために早期対応が重要な理由
現在、日本の高齢者の5人に1人が認知症を発症すると言われています。認知症は「治らない病気」と思われがちですが、早期に発見できれば、薬物療法や生活習慣の改善によって進行を緩やかにしたり、本人の不安を和らげたりすることが可能です。また、中には治療可能な「治る物忘れ(脳外科疾患や内科疾患)」が隠れている場合もあります。
こんな状態になったら受診のサイン
「以前の本人と比べて明らかに様子が違う」と感じたら受診のタイミングです。具体的には、「日常生活に支障が出始めた」「性格が急に変わった」「通い慣れた道で迷った」といった症状があれば、迷わず相談することをお勧めします。「年だから仕方ない」と放置しないことが大切です。
何科を受診すればいい?
まずは、お近くの「もの忘れ外来」や「精神科」「脳神経内科」「脳神経外科」を受診しましょう。どこに行けばいいか迷う場合は、まずは信頼できる「かかりつけ医」に相談し、専門の医療機関を紹介してもらうのも良い方法です。また、地域の「地域包括支援センター」でも相談を受け付けています。
家族が本人を受診に連れて行くときのポイント
本人が受診を嫌がる場合は、「認知症の検査」と言うのではなく、「最近眠れないようだから」「健康診断のついでに脳も診てもらおう」といった、自尊心を傷つけない誘い方が効果的です。また、「私が心配だから、安心するために一緒に来てほしい」と伝えるのも一つの手です。
認知症の進行と治療|早期発見で何が変わる?
早期発見のメリットは、治療によって「自分らしく過ごせる時間」を延ばせることです。現在の治療薬は、認知機能を劇的に回復させるものではありませんが、進行を遅らせる効果があります。また、早期から適切なケア環境を整えることで、パニックや徘徊といった周辺症状の予防にもつながり、ご家族の介護負担を軽減することにも直結します。
脳神経外科
専門医/指導医
當銀 壮太
当院では、認知症専門医・指導医が診療にあたっております。
単なる物忘れか、認知症によるものかを、画像検査や心理検査を用いて多角的に診断します。診断だけでなく、その後の生活のサポートや、ご家族のケアについても親身に対応いたします。
まとめ
「ただの物忘れ」か「認知症」かを正しく見極めることは、その後の生活の質を大きく左右します。
もし少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まずに専門家に相談してください。早期の受診と相談が、本人とご家族の穏やかな毎日を守る第一歩となります。
まずはチェックリストを参考に、今の状態を確認することから始めてみましょう。
よくある質問
必ずしも認知症とは限りません。加齢による自然な物忘れでも起こる症状です。ただし、日常生活に支障が出ている場合や、同じことを何度も繰り返す場合は専門医への相談をおすすめします。
いいえ。時間や場所が分からなくなる、意欲が低下する、性格が変わったように見えるなど、物忘れ以外の症状が現れることもあります。
もの忘れ外来、脳神経内科、脳神経外科、精神科などで相談できます。迷う場合は、まずかかりつけ医に相談しましょう。
お気軽にお問い合わせください
「これって受診したほうがいいのかな?」と迷う段階でも大丈夫です。
症状がはっきりしていなくても、不安や違和感があればご相談ください。
日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医/指導医
當銀 壮太
南武線鹿島田駅から徒歩5分のかしまだ頭痛 脳神経クリニック院長。「頭の悩みを気軽に相談できる場所を作りたい」という想いから、川崎市幸区にクリニックを開院。地域中核病院にて、脳血管障害や頭部外傷、脳腫瘍への専門的治療(開頭手術・カテーテル治療・化学療法)に幅広く従事。その豊富な臨床経験に基づき、患者様一人ひとりに最良の医療を提供することに尽力している。