【専門医監修】三叉神経痛とは?原因・初期症状・痛みを和らげる方法を解説

顔の片側に突然、電気が走るような激しい痛みが起こる――。このような症状を繰り返す場合、「三叉(さんさ)神経痛」の可能性があります。食事や会話、歯みがき、洗顔など、日常の何気ない動作によって強い痛みが誘発されるため、食事ができない、顔を洗えない、人と話すのが怖いなど、生活に大きな支障をきたすことがあります。
歯や歯ぐきの痛みと間違われやすく、「歯科を受診したものの異常が見つからなかった」「治療を受けても痛みが改善しない」という方も少なくありません。この記事では、三叉神経痛の特徴的な症状や原因、検査、治療法、受診の目安について分かりやすく解説します。
日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医/指導医
當銀 壮太
南武線鹿島田駅から徒歩5分のかしまだ頭痛 脳神経クリニック院長。「頭の悩みを気軽に相談できる場所を作りたい」という想いから、川崎市幸区にクリニックを開院。地域中核病院にて、脳血管障害や頭部外傷、脳腫瘍への専門的治療(開頭手術・カテーテル治療・化学療法)に幅広く従事。その豊富な臨床経験に基づき、患者様一人ひとりに最良の医療を提供することに尽力している。
三叉神経痛とは
三叉神経痛とは、顔の感覚を脳に伝える「三叉神経」に異常が生じることで、顔面に鋭い発作性の痛みが繰り返し起こる疾患です。
三叉神経は左右に1本ずつあり、それぞれ次の3つの枝に分かれています。
第1枝・眼神経(V1):額、まぶた、目の周辺
第2枝・上顎神経(V2):頬、鼻の横、上唇、上の歯ぐき
第3枝・下顎神経(V3):下顎、下唇、下の歯ぐき
三叉神経痛では、特に頬や口の周辺に分布する第2枝と第3枝の領域に痛みが起こりやすい傾向があります。この神経が何らかの原因で圧迫・刺激されると脳への伝達信号が乱れ、わずかな触覚刺激であっても激烈な痛みを感知するようになります。その激しさは、日常生活を困難にさせるほどの激痛として知られています。
三叉神経痛の症状
初期症状の特徴
三叉神経痛は、必ずしも軽いしびれや違和感から始まるわけではありません。最初から、短時間の電撃痛として現れることもあります。
発症初期には痛みの回数が少なく、症状がすぐに治まるため、「歯がしみたのだろう」「疲れているだけ」と見過ごされることがあります。
一方、顔のしびれがずっと続く、ヒリヒリした痛みが一日中続く、触らなくても持続的に痛むといった症状は、典型的な三叉神経痛とは異なる場合があります。帯状疱疹後神経痛や歯科疾患、そのほかの神経障害なども含めた評価が必要です。
痛みが出やすい場所とトリガーとなる動作
三叉神経痛では、通常なら痛みを感じない程度の軽い刺激が、発作の引き金になることがあります。
代表的な誘発動作には次のようなものがあります。
- 歯みがき
- 食事や咀嚼
- 会話、笑う、あくびをする
- 洗顔、ひげそりや化粧
- 冷たい風が顔に当たる
痛みを誘発する顔の一部分を「トリガーゾーン」と呼びます。鼻の横や唇、頬などに触れただけで痛みが起こる場合があります。
発作自体は短時間でも、「また痛むのではないか」という不安から、食事、会話、歯みがき、外出などを避けるようになることがあります。症状が強い場合には、食事量の低下による体重減少や脱水、睡眠不足、不安や抑うつなどにつながることもあります。
三叉神経痛の痛みについて
三叉神経痛の痛みは、次のように表現されます。
- 電気が走るような短時間の激痛
- 針で刺されるような痛み
- ナイフで切られるような鋭い痛み
- 一瞬、顔を動かせなくなるほどの激痛
1回の発作は数秒から数十秒程度で治まることが多いものの、短時間に何度も繰り返すことがあります。発作と発作の間には痛みがないこともありますが、患者さんによっては鈍い痛みや違和感が残る場合もあります。
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三叉神経痛と間違えやすい症状・疾患との違い
顔や歯の周辺に痛みが起こる病気は、三叉神経痛だけではありません。症状だけで自己判断せず、必要に応じて歯科や脳神経内科、脳神経外科などで診察を受けることが重要です。
歯痛・顎関節症との違い
痛む場所が頬や歯ぐきであるため、歯科治療を何度も受けてしまうケースが多々あります。
- 歯痛: 虫歯や歯髄炎などによる歯痛では、冷たいものや温かいものがしみる、噛むと特定の歯が痛む、痛みが持続するといった症状がみられます。一方、三叉神経痛では、歯科検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず、歯みがきや咀嚼をきっかけに電撃のような短時間の痛みが起こります。ただし、歯科疾患と三叉神経痛が同時に存在することもあります。必要な歯科診察を受けずに、すべての痛みを三叉神経痛と判断することも適切ではありません。
- 顎関節症: 顎関節症では、顎関節や咀嚼筋の痛みのほか、口を開けると音がする、口が開きにくい、顎を動かすと痛むといった症状が中心です。
三叉神経痛では、顎の動きそのものよりも、咀嚼や顔への接触によって瞬間的な激痛が誘発されます。
群発頭痛・片頭痛との違い
- 群発頭痛: 片側の目の奥からこめかみに非常に強い痛みが起こり、15分から3時間程度続きます。痛む側の涙、鼻水、鼻づまり、目の充血などを伴うのが特徴です。三叉神経痛は発作時間がより短く、顔や口への軽い刺激によって誘発されやすい点が異なります。
- 片頭痛: 頭の片側または両側にズキズキとした痛みが起こり、通常は数時間から数日続きます。吐き気や、光・音への過敏を伴うことがあります。三叉神経痛は、主に顔面に数秒から数十秒程度の電撃痛が起こる点で異なります。
三叉神経痛は発作が数秒〜数十秒と極めて短い点でこれらの頭痛と異なります。
帯状疱疹後(たいじょうほうしんご)神経痛との違い
- 帯状疱疹後神経痛: 帯状疱疹後神経痛では、帯状疱疹の発疹や水ぶくれが治った後も、ヒリヒリ、ジンジンとした持続的な痛みが残ります。
三叉神経痛のような短い電撃痛とは異なりますが、帯状疱疹に伴って三叉神経の領域に痛みが起こることもあります。
三叉神経痛の原因──なぜ神経が痛みを発するのか
三叉神経痛のメカニズムの根底には、神経を保護する絶縁体のような役割を持つ「髄鞘(ミエリンしょう)」の損傷があります。神経を覆う髄鞘が障害され、触覚などの刺激が痛みの信号として伝わりやすくなると考えられています。
最も多い原因:血管による神経の圧迫
全体の約80〜90%は、脳幹から三叉神経が出る根元部分で、近くの動脈(主に上小脳動脈)が接触・圧迫する「神経血管圧迫」が原因です。加齢に伴う動脈硬化や血管の蛇行が主な要因となるため、50代以上での発症が多くなります。
その他の原因(脳腫瘍・原因不明のケース)
血管圧迫以外にも、聴神経腫瘍や髄膜腫といった「脳腫瘍」、神経に炎症が起きる「多発性硬化症(MS)」などが原因で神経が障害されるケースがあります。
問診や診察、MRI検査を行っても、明らかな神経血管圧迫や原因疾患が確認できないことがあります。このような場合は「特発性三叉神経痛」と診断されることがあります。
ストレスは原因になるのか?
ストレスそのものが三叉神経を圧迫し、三叉神経痛を発症させるわけではありません。
ただし、疲労や睡眠不足、精神的なストレスによって痛みを強く感じたり、症状への不安が増したりする可能性はあります。顔の痛みをストレスだけの問題と判断せず、特徴的な症状がある場合は医療機関を受診しましょう。
三叉神経痛になりやすい人の特徴
三叉神経痛は、特に中高年以降に多くみられ、男性よりも女性にやや多いとされています。
若い方でも発症することはありますが、若年発症の場合には、多発性硬化症などの病変の有無を確認することが重要です。なお、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があるからといって、必ず三叉神経痛を発症するわけではありません。
三叉神経痛の診断
適切な診断には、詳細な問診と画像検査(MRI)が必要です。
問診・MRI検査による診断の流れ
診察では、主に次の点を確認します。
- 痛む場所や左右どちらか
- 回の痛みが続く時間
- 痛みの性質
- 痛みを誘発する動作
- 発作の頻度
- 発作の間に痛みが残るか
- 顔のしびれや感覚低下がないか
- 歯科治療歴
- 帯状疱疹の既往
典型的な三叉神経痛は、症状の特徴から臨床的に診断します。
MRI検査では、三叉神経と周囲の血管との位置関係を確認するとともに、脳腫瘍、多発性硬化症、血管奇形などの原因となる病変がないかを調べます。
必要に応じて、三叉神経や周囲の血管を細かく確認するための撮影を追加します。MRIは重要な検査ですが、画像だけで診断するのではなく、問診や神経学的診察と合わせて判断します。
なぜ脳神経科を受診すべきなのか
三叉神経痛は歯や歯ぐき、頬、顎の周辺に痛みが現れるため、最初に歯科や耳鼻咽喉科を受診する方も少なくありません。歯や副鼻腔などの病気を確認することは重要ですが、検査で原因が見つからないにもかかわらず、顔に電気が走るような短い痛みを繰り返す場合は、脳神経内科または脳神経外科への受診をご検討ください。
脳神経の診療科では、痛みの場所や持続時間、発作を誘発する動作などから三叉神経痛の可能性を判断します。
また、必要に応じてMRI検査を行い、三叉神経と周囲の血管との関係や、脳腫瘍、多発性硬化症などの原因となる病気が隠れていないかを確認します。診断後は薬物療法を開始し、効果が不十分な場合には脳神経外科と連携して、手術や放射線治療などの適応を検討します。
三叉神経痛の痛みを和らげる方法
三叉神経痛は、セルフケアだけで治すことはできません。ただし、診察を受けるまでの間や治療中に、痛みを誘発する刺激を減らす工夫はできます。
日常生活でのトリガー回避
- 冷気への対策: 外出時はマスクやマフラーで顔を覆い、冷たい風が直接顔の皮膚に当たらないようにします。
- 優しいケア: 洗顔は洗顔料をしっかり泡立てて手との摩擦を避けます。歯みがきは毛先の柔らかいブラシを選び、トリガーとなる部位を避けて優しく磨きます。
- 食事の調整: 極端に熱い、または冷たいものは避け、あまり噛まなくても飲み込みやすい柔らかい食べ物を選択します。
- 十分な休養: 神経の過敏性を下げるために、睡眠を十分にとりストレスを溜めない環境を整えます。
三叉神経痛の治療法
三叉神経痛の治療方法は、症状の強さ、原因、年齢、持病、薬の効果や副作用などを考慮して選択します。
① 薬物療法(第一選択)
三叉神経痛では、まず薬物療法を行うのが一般的です。
第一選択薬として使用されるのが、抗てんかん薬の「カルバマゼピン」です。てんかんの治療薬として開発された薬ですが、神経の過剰な興奮を抑える作用があり、三叉神経痛にも使用されます。
カルバマゼピンには、次のような副作用があります。
- 眠気
- めまい、ふらつき
- 発疹、薬疹
- 聴力障害等
ほかの薬との相互作用もあるため、医師の管理下で少量から開始し、症状や副作用を確認しながら調整します。定期的な血液検査が必要になることもあります。
カルバマゼピンの効果が不十分な場合や副作用で使用できない場合には、症状や体質に応じて、ほかの薬を検討します。
② 神経ブロック
痛みを伝達する三叉神経(またはその周辺)に局所麻酔薬などを注射し、一時的に痛みの伝導を遮断する治療です。薬物療法の効果が不十分な場合や副作用が強い場合に選ばれますが、数週間から数ヶ月で効果が切れることが多く、繰り返しの治療が必要になる傾向があります。
③ ガンマナイフ(放射線治療)
定位放射線治療は、三叉神経の根元に放射線を集中して照射し、痛みの伝達を抑える治療です。開頭手術を必要とせず、身体への負担が比較的少ないため、高齢の方や全身麻酔を伴う手術が難しい方などで検討されます。
ただし、治療直後から痛みが消えるとは限らず、効果が現れるまでに数週間から数か月かかることがあります。また、時間の経過とともに痛みが再発したり、顔のしびれなどの副作用が起こったりする可能性があります。
④ 手術(微小血管減圧術)
微小血管減圧術は、三叉神経を圧迫している血管を神経から離し、圧迫を解除する手術です。
全身麻酔を行い、耳の後ろの頭蓋骨を小さく開け、顕微鏡で神経と血管を確認しながら治療します。血管による神経の圧迫が原因となっている場合には、圧迫そのものを取り除くことができ、長期間にわたる痛みの改善が期待できます。
一方で、開頭手術であるため、聴力低下、髄液漏、感染、脳神経障害、脳血管障害などの合併症が起こる可能性があります。
薬物療法で痛みを十分にコントロールできない場合、副作用によって薬を継続できない場合、症状によって生活に大きな支障がある場合などに、脳神経外科で手術の適応を検討します。
三叉神経痛は自然治癒するのか?治療法の選び方
三叉神経痛では、治療をしていなくても、一時的に痛みが現れなくなる「無痛期」がみられることがあります。しかし、無痛期があるからといって完全に治ったとは限らず、数か月後や数年後に再発することもあります。
一方で、すべての方が徐々に悪化するわけでもなく、症状の経過には個人差があります。痛みが軽いうちに診断を受けておくことで、再発した場合にも適切な治療につなげやすくなります。
三叉神経痛を放置してはいけない理由
三叉神経痛は、直接命に関わる病気ではないことが多いものの、強い痛みを我慢し続けることで、日常生活に大きな影響が生じます。
- 食事や水分を避け、体重減少や脱水を起こす
- 歯みがきができず、口腔内環境が悪化する
- 会話や外出を避けるようになる
- 睡眠不足や不安、抑うつにつながる
- 原因が分からないまま、歯科治療を繰り返してしまう
また、まれに脳腫瘍や多発性硬化症などが原因となっていることがあります。症状を我慢したり、市販薬だけで対処し続けたりせず、適切な診察を受けることが大切です。
こんな症状があれば脳神経外科へ──受診の目安
次のような症状がある場合は、脳神経内科または脳神経外科への受診を検討してください。
- 顔や歯ぐきに電気が走るような激痛を繰り返す
- 歯みがき、食事、会話、洗顔によって痛みが起こる
- 顔の決まった場所に触れると痛みが誘発される
- 歯科を受診しても原因が見つからない
- 歯科治療を受けても痛みが改善しない
- 痛みのために食事や歯みがきができない
- 顔のしびれや感覚低下を伴う
- 若い年代で発症した
- 両側の顔に症状がある
- 電撃痛だけでなく、持続的な痛みがある
まとめ
三叉神経痛は、顔の片側に電気が走るような短時間の激痛を繰り返す病気です。歯みがき、食事、会話、洗顔など、通常なら痛みを感じない軽い刺激によって発作が誘発されます。
歯の痛みと間違われやすい一方で、脳腫瘍や多発性硬化症などが原因となっている場合もあるため、症状についての詳しい問診と、必要に応じたMRI検査が重要です。治療では、まず薬物療法を行います。薬の効果が不十分な場合や副作用が強い場合には、神経ブロック、経皮的治療、定位放射線治療、微小血管減圧術などを検討します。
顔の痛みに苦しんでいる方は我慢せず、まずは脳神経外科・脳神経クリニックに足を運んで相談してみましょう。
よくある質問
50代以降に多い病気ですが、若い方に全く発症しないわけではありません。多発性硬化症(MS)や血管の奇形、脳腫瘍といった要因による場合、20代〜40代などの若い世代で現れるケースも報告されています。
薬物療法によって、痛みを十分に抑えられることがあります。血管による三叉神経の圧迫が明らかな場合には、微小血管減圧術によって長期間痛みがない状態を目指せることもあります。
ただし、どの治療でも再発する可能性があり、治療効果には個人差があります。
痛みが強く、食事や水分を取れない場合や、処方された薬を服用しても激しい発作を繰り返す場合は、早めに医療機関へ相談してください。
顔面痛に加えて、手足の麻痺やしびれ、言葉のもつれ、意識障害、突然の激しい頭痛などがある場合は、脳卒中などの可能性があるため、速やかな救急受診が必要です。
お気軽にお問い合わせください
「これって受診したほうがいいのかな?」と迷う段階でも大丈夫です。
症状がはっきりしていなくても、不安や違和感があればご相談ください。
日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医/指導医
當銀 壮太
南武線鹿島田駅から徒歩5分のかしまだ頭痛 脳神経クリニック院長。「頭の悩みを気軽に相談できる場所を作りたい」という想いから、川崎市幸区にクリニックを開院。地域中核病院にて、脳血管障害や頭部外傷、脳腫瘍への専門的治療(開頭手術・カテーテル治療・化学療法)に幅広く従事。その豊富な臨床経験に基づき、患者様一人ひとりに最良の医療を提供することに尽力している。